嚥下(えんげ)とは、食べ物や飲み物を口から胃へと送り込む一連の動作のことです。「飲み込む」という日常的な動作ですが、実際には口・舌・咽頭(のど)・食道の筋肉と神経が精密に連携する複雑なプロセスです。
加齢によってこの機能が低下すると、食べ物や唾液が誤って気道に入りやすくなります(誤嚥)。誤嚥が繰り返されると誤嚥性肺炎を引き起こし、入院や体力低下につながるリスクがあります。また、食べる量が減ることで栄養失調(低栄養)が進み、筋力・免疫力・認知機能にも悪影響を与える可能性があります。
このページを読むことで、次のことが理解できます。
- 嚥下の基本的な仕組みと加齢による変化
- 嚥下障害・誤嚥・低栄養のサインと対策
- 食事の形態調整・栄養補助食品の活用
- 経管栄養・胃ろうなど医療的栄養管理の概要
- 介護保険・医療保険を使った支援の流れ
- 訪問診療での対応内容
- 高齢の家族が食事中によくむせるようになった
- 食欲が落ちて体重が減り続けている
- 胃ろうや経管栄養について検討し始めた
- ケアプランに嚥下リハビリや栄養管理を組み込みたい
- 在宅で安全に食事を続けられるか不安がある
嚥下は一般に「口腔期→咽頭期→食道期」の3段階に分けられます。
| 段階 | 主な働き |
|---|---|
| 口腔期 | 食べ物を噛み砕き、舌で喉の奥へ送る |
| 咽頭期 | 気道を閉じながら食塊を食道へ送り込む(約0.5秒) |
| 食道期 | 蠕動(ぜんどう)運動で胃まで運ぶ |
このうち咽頭期は反射的に起こり、意識でコントロールできない部分です。筋力低下や神経障害があると、ここで誤嚥が生じやすくなります。
厚生労働省の調査では、75歳以上の高齢者で何らかの嚥下機能の低下がみられる方の割合が増加することが示されています。主な要因として以下が挙げられます。
- 筋力の低下(舌・咽頭・食道の筋肉)
- 唾液分泌量の減少(口腔内の食塊形成が困難になる)
- 感覚機能の低下(むせる反射が起きにくくなる)
- 脳血管疾患・認知症・パーキンソン病などの基礎疾患
特に「むせずに誤嚥する(不顕性誤嚥)」は見逃されやすく、気づかないうちに肺炎を繰り返すケースがあります。
以下の変化が続く場合は、嚥下機能の低下が疑われます。早めに主治医や訪問診療医に相談することをお勧めします。
- 食事中・食後にむせや咳が増えた
- 食事に時間がかかるようになった
- 食べ物が口からこぼれる
- 声がかすれる・食後にゴロゴロした声になる
- 体重が1か月で数kg減少している
- 発熱(37.5℃以上)が繰り返される
嚥下機能の低下は食事量の減少を招き、低栄養(栄養失調)につながります。低栄養はサルコペニア(筋肉量の低下)・フレイル(虚弱)を悪化させ、嚥下機能をさらに低下させるという悪循環が生じます。
日本老年医学会や日本静脈経腸栄養学会のガイドラインでは、高齢者の栄養評価としてMNA(簡易栄養状態評価表)などのスクリーニングツールの活用が推奨されています。体重の推移・食事摂取量・BMIなどを定期的に確認することが重要です。
誤嚥性肺炎は、食べ物や口腔内の細菌が気道・肺に入ることで生じる肺炎です。高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎であるとされており、在宅療養においても主要なリスクのひとつです。口腔ケアの徹底・食事姿勢の工夫・嚥下リハビリが予防の柱となります。
👉 詳しくは「誤嚥性肺炎とは?原因・症状・在宅での予防」をご覧ください。
口から十分な栄養を摂ることが困難になった場合の選択肢として、胃ろう(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)や経鼻胃管などの経管栄養があります。これらは「食べられなくなったら最後の手段」ではなく、状態や本人の意思・家族の希望に応じて早期から検討することもあります。メリット・デメリット・在宅での管理方法について、医師・ケアマネジャーと事前に話し合っておくことが大切です。
👉 詳しくは「胃ろうとは?メリット・デメリット・在宅での管理」をご覧ください。
腎機能が低下している高齢者では、カリウムの摂りすぎが不整脈や心停止のリスクになる場合があります。一方、極端な制限は低栄養を招くこともあります。どの食品にカリウムが多いか・少ないかを把握し、管理栄養士の指導のもとで食事計画を立てることが重要です。
👉 詳しくは「カリウムの多い食品・少ない食品一覧|腎臓が気になる方へ」をご覧ください。
食事量が少ない場合でも必要な栄養素を補える手段として、栄養補助食品(経口栄養補助食品:ONS)が活用されています。高齢者向けには、エネルギー・たんぱく質・ビタミン・ミネラルを効率よく摂れる製品が多数あります。ただし、疾患や薬との相互作用がある場合もあるため、選択の際は医師・管理栄養士への相談が望ましいといえます。
👉 詳しくは「高齢者向け栄養補助食品の選び方|低栄養対策」をご覧ください。
誤嚥(ごえん)とは、本来食道へ送られるべき食べ物・飲み物・唾液などが気道(気管)へ入ってしまうことです。健康な方でも起こりうる現象ですが、高齢になるほど頻度が増し、気づきにくい「不顕性誤嚥」が問題になります。食事姿勢・食形態・食べるペースの工夫など、日常生活でできる予防策があります。
👉 詳しくは「誤嚥とは?原因・サイン・在宅でできる誤嚥予防」をご覧ください。
パタカラ体操は「パ・タ・カ・ラ」の4音を繰り返し発声することで、口・舌・唇・のどの筋肉を鍛える口腔体操です。嚥下機能の維持・改善を目的としたリハビリとして、言語聴覚士(ST)の指導のもとでも広く取り入れられています。食前に行うことで嚥下の準備体操としても活用できます。
👉 詳しくは「パタカラ体操とは?嚥下機能を鍛える口腔体操のやり方」をご覧ください。
また、嚥下機能の維持には口腔ケアも欠かせません。口腔内の細菌を減らすことで誤嚥性肺炎のリスクを下げることができます。詳しくは「高齢者の口腔ケア|方法・誤嚥性肺炎の予防」もあわせてご覧ください。
嚥下・栄養に関連するケアの多くは、介護保険サービスとして利用できます。
| サービス | 内容の例 |
|---|---|
| 訪問リハビリテーション | 言語聴覚士・理学療法士・作業療法士による嚥下リハビリ |
| 訪問栄養食事指導 | 管理栄養士が自宅を訪問し、食事・栄養の個別指導を行う |
| 訪問口腔衛生管理 | 歯科衛生士による口腔ケアの指導・実施 |
| 居宅療養管理指導 | 医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士等による管理・指導 |
訪問診療(在宅医療)では、医師が定期的に自宅を訪問して診察・処方・嚥下評価・栄養管理の指示を行います。胃ろう管理・経管栄養の指導なども医療保険の対象となる場合があります。
- かかりつけ医または訪問診療医への相談 → 嚥下・栄養状態の評価
- ケアマネジャーへの相談 → ケアプランへの反映(訪問リハビリ・栄養指導等の追加)
- 専門職(ST・管理栄養士・歯科衛生士)との連携 → 個別プログラムの作成
- 定期的なモニタリング → 体重・摂取量・嚥下状態の確認と計画の見直し
費用の自己負担額は所得・要介護度・サービスの種類によって異なります。詳細は担当のケアマネジャーや各市区町村の窓口にお問い合わせください。
メディカルクリニックあざみ野の訪問診療では、嚥下・食事・栄養に関する以下のような対応が可能です(対応内容は患者さまの状態や必要な医療サービスによって異なります)。
- 嚥下機能の評価と食形態の指導(家族・ヘルパーへの助言を含む)
- 栄養状態のアセスメント(体重・血液検査・摂取量の確認)
- 栄養補助食品・経腸栄養剤の処方・調整
- 胃ろう・経管栄養の管理と定期的な観察
- 誤嚥性肺炎の予防・早期発見・在宅治療の検討
- 言語聴覚士・管理栄養士・歯科医師等との多職種連携
「むせが増えた」「食事量が減ってきた」「胃ろうを勧められたが在宅で続けられるか心配」など、小さな疑問や不安もお気軽にご相談ください。
在宅医療・訪問診療に関するご相談は、以下よりお問い合わせいただけます。
TEL: 045-978-0455
ご相談の際は、薬剤情報提供書またはお薬手帳の写し/医療保険証・公費証明書・各種受給者証の写し/介護保険証・介護保険負担割合証の写し/限度額適用認定証等の写し/印鑑をご用意いただくとスムーズです。
A. むせが頻繁に起きる場合や、食後に発熱・咳が続く場合は、嚥下機能の低下が疑われます。まずはかかりつけ医または訪問診療医にご相談ください。必要に応じて嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)による専門的な評価が行われることがあります。「少しむせる程度だから大丈夫」と放置せず、早めに専門家に確認することをお勧めします。
A. 胃ろうの管理は、訪問診療医や訪問看護師のサポートがあれば、多くの場合、在宅でも継続できます。注入の手順・皮膚トラブルの予防・栄養剤の選択など、医療スタッフが丁寧に指導します。胃ろうに関する詳しい情報は「胃ろうとは?メリット・デメリット・在宅での管理」をご覧ください。
A. 市販の栄養補助食品も一定の効果が期待できますが、腎臓病・糖尿病・心疾患などの基礎疾患がある場合は、カリウム・リン・糖質・水分量への配慮が必要なことがあります。製品の選択は管理栄養士や医師に相談したうえで行うと安心です。詳しくは「高齢者向け栄養補助食品の選び方|低栄養対策」をご参照ください。
A. 一般的には1日2〜3回、食事の前に行うことが推奨されることが多いです。ただし、個々の嚥下機能の状態や体力によって適切な回数・強度は異なります。言語聴覚士や担当医の指導のもとで、無理のない範囲で継続することが大切です。詳しくは「パタカラ体操とは?嚥下機能を鍛える口腔体操のやり方」をご覧ください。
A. 訪問診療(医師)と訪問リハビリ(理学療法士・言語聴覚士など)は、それぞれ別のサービスです。訪問リハビリの利用には、医師の指示書が必要です。まず訪問診療医に相談し、必要性が確認されればケアマネジャーと連携してサービスを組み合わせることができます。ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
- 誤嚥性肺炎とは?原因・症状・在宅での予防
- 胃ろうとは?メリット・デメリット・在宅での管理
- カリウムの多い食品・少ない食品一覧|腎臓が気になる方へ
- 高齢者向け栄養補助食品の選び方|低栄養対策
- 誤嚥とは?原因・サイン・在宅でできる誤嚥予防
- パタカラ体操とは?嚥下機能を鍛える口腔体操のやり方
- 高齢者の口腔ケア|方法・誤嚥性肺炎の予防
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/メディカルクリニックあざみ野 理事長
専門: 消化器外科 / 在宅医療・高齢者医療・がん緩和ケア・心不全・呼吸不全
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
厚生労働省『地域連携クリティカルパスモデルの開発』班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
在宅医療・訪問診療、高齢者医療やがん緩和ケア、心不全・呼吸不全の療養について、気になることがあればお気軽にご相談ください。嚥下・食事・栄養に関するお悩みも、訪問診療の中で多職種と連携しながら丁寧にサポートいたします。
TEL: 045-978-0455
ご相談の際は、以下の書類・持ち物をご用意いただくとスムーズです。
- 薬剤情報提供書またはお薬手帳の写し
- 医療保険証・公費証明書・各種受給者証の写し
- 介護保険証・介護保険負担割合証の写し
- 限度額適用認定証等の写し
- 印鑑