認知症の方に見られる「暴言・暴力」「徘徊」「抑うつ」「幻覚」などの症状をまとめてBPSD(認知症の行動・心理症状)と呼びます。BPSDは記憶障害などの「中核症状」とは異なり、適切なケアや環境調整によって軽減できる可能性があります。本記事では、BPSDの定義・種類・家庭での対応・受診の目安をわかりやすく解説します。
BPSDとは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、日本語では「認知症の行動・心理症状」と訳されます。国際老年精神医学会(IPA)が提唱した概念で、認知症の経過中に生じる知覚・思考内容・気分・行動の異常を広く指します。
認知症には「中核症状」と「BPSD」の2つの側面があります。中核症状とは、脳細胞の障害によって直接引き起こされる記憶障害・見当識障害・判断力の低下などであり、現時点では根本的な改善が難しいとされています。一方、BPSDは中核症状を「土台」として、本人の性格・生活環境・介護者との関係・身体的要因などが複雑にからみ合って現れる症状です。そのため、環境や関わり方を工夫することで症状が緩和されることも多く、介護する家族やケアマネジャーが正しく理解しておくことが大切です。
認知症全般との関係や基礎知識については、親ピラーページ「認知症の基礎・症状・対応 完全ガイド」もあわせてご参照ください。
BPSDは大きく「行動症状」と「心理症状」に分類されます。
| 症状 | 具体例 |
|---|---|
| 徘徊 | 目的なく歩き回る、外に出ようとする |
| 暴言・暴力 | 介護者を叩く、罵倒する |
| 不穏・興奮 | 落ち着きがなく、ざわざわしている |
| 拒否 | 食事・入浴・服薬を頑なに拒む |
| 異食・過食 | 食べられないものを口に入れる |
| 睡眠障害 | 夜間に活動し、昼夜逆転する |
| 症状 | 具体例 |
|---|---|
| 幻覚 | 「知らない人がいる」「虫が見える」 |
| 妄想 | 「財布を盗まれた(物盗られ妄想)」 |
| 抑うつ | 気力がなく、塞ぎ込む |
| 不安・焦燥 | 「どこへ行けばいい?」と繰り返し問う |
| アパシー | 感情が乏しくなる「意欲の低下」 |
初期段階では目立ちにくい以下のサインに注意が必要です。
- ささいなことで涙ぐむ・怒りっぽくなる:人格の変化として見過ごされがちですが、BPSDの初期サインである場合があります。
- 昼夜逆転の前兆としての「夕方の混乱(夕暮れ症候群)」:夕方になると不安定になるパターンはBPSDの典型的な一形態です。
- 「誰かに狙われている」という訴え:妄想の初期は「被害妄想」として現れることが多く、「本人の思い込み」と軽視されやすい傾向があります。
BPSDは単一の原因で起こるのではなく、複数の要因が重なって生じます。主な要因は以下のとおりです。
1. 脳の器質的変化
認知症の種類によってBPSDの現れ方が異なります。たとえば、レビー小体型認知症では幻視が特に多く見られるほか、アルツハイマー型認知症では物盗られ妄想や徘徊が頻繁に観察されます。
2. 身体的な不調
便秘・脱水・疼痛・感染症・睡眠不足などの身体的な苦痛が、認知症の方には言語で伝えられず、BPSDとして表出することがあります。
3. 環境・心理的要因
引越しや入院などの環境変化、孤独感、介護者からの声掛けの方法なども症状に影響します。「否定される」「急かされる」と感じる状況は症状を悪化させやすいとされています。
4. 薬剤の影響
複数の薬を服用している高齢者では、薬の副作用や相互作用がBPSDを引き起こすケースもあります。
BPSDへの対応では、まず非薬物療法(環境・コミュニケーションの工夫)を優先することが国際的なガイドライン(IPAガイドライン等)でも推奨されています。
コミュニケーションの基本
- 否定せず、共感するように話す(「そうですね、不安ですよね」)
- 穏やかな声のトーンと笑顔を意識する
- 急かさず、本人のペースに合わせる
環境の工夫
- 見慣れた家具や写真を置き、安心できる空間を整える
- 夕方に明るい照明を使い、昼夜逆転を予防する
- 安全に歩き回れるスペースや、外出できる動線を確保する
観察のポイント
- 症状が出る時間帯・きっかけ・前後の状況を記録する
- 便秘・発熱・食事量など身体状態の変化も合わせてメモする
- 介護者自身が疲弊していないか定期的に確認する
以下のような場合は、かかりつけ医や専門医への相談をお勧めします。
- 暴力行為により本人または介護者が怪我をするリスクがある
- 食事や服薬を強く拒否し、健康状態が維持できない
- 本人が強い苦痛(幻覚・妄想による恐怖)を示している
- 数日で急激に症状が出現・悪化した(せん妄との鑑別が必要)
- 介護者が心身ともに限界を感じている
なお、急激な混乱や意識レベルの変化を伴う場合は、BPSDではなく「せん妄」の可能性もあります。両者の違いについては「せん妄とは?認知症との違い・原因・対応法を解説」をご参照ください。
訪問診療では、ご自宅でのBPSDの状況を直接確認しながら対応を検討できます。通院が難しい方は在宅医療のご相談・お問い合わせもご活用ください。
- BPSDとは:認知症に伴う行動・心理症状の総称。徘徊・幻覚・妄想・うつなど多彩な症状が含まれます。
- 認知症 BPSD/BPSD 認知症:BPSDは認知症の種類(アルツハイマー型・レビー小体型・血管性など)によって現れやすい症状が異なります。
- BPSD 症状:行動症状(徘徊・暴力・拒否など)と心理症状(幻覚・妄想・抑うつなど)に大別されます。いずれも本人の苦痛のサインとして捉えることが重要です。
メディカルクリニックあざみ野では、認知症の方とご家族を在宅で支える訪問診療を行っています。BPSDの評価・症状への対応方針の検討・薬剤調整・介護者へのアドバイスまで、ご自宅の環境を直接確認しながら対応いたします。「受診が難しい」「介護に行き詰まりを感じている」などのご状況でも、まずはお気軽にご相談ください。
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📞 TEL:045-978-0455
Q1. BPSDは認知症の全員に起こりますか?
認知症の経過中にBPSDが全くない方は少なく、多くの方で何らかの症状が見られるとされています。ただし、種類・程度・時期は個人差が大きく、すべての方に同じ症状が現れるわけではありません。
Q2. BPSDは薬で治療できますか?
非薬物療法(環境調整・コミュニケーション)が基本であり、薬物療法はそれを補う形で検討されます。薬の選択・投与量は、本人の認知症の種類や身体状態を踏まえて医師が慎重に判断します。自己判断での服薬変更は行わないようにしてください。
Q3. 「物盗られ妄想」に対してどう接すればよいですか?
「盗んでいない」と否定することは逆効果になりやすいとされています。「一緒に探しましょう」と共感を示しながら行動を共にすることが、症状の落ち着きにつながることがあります。
Q4. 夜中に起き出して困っています。何か対策はありますか?
昼夜逆転は認知症のBPSDに多く見られます。日中の活動量を増やす・太陽の光を浴びる・夕方以降の明るい照明を活用するなどの生活リズムの見直しが有効な場合があります。改善が見られない場合は医師へご相談ください。
Q5. BPSDが急に悪化しました。すぐに受診すべきですか?
数時間〜数日で急激に症状が悪化した場合は、せん妄や身体疾患(感染症・脱水など)の可能性があります。早めにかかりつけ医へ連絡することをお勧めします。訪問診療をご利用の場合はクリニックへお電話ください。
- 認知症の基礎・症状・対応 完全ガイド(親ピラーページ)
- せん妄とは?認知症との違い・原因・対応法を解説
- レビー小体型認知症とは?症状・特徴・アルツハイマーとの違い
- アルツハイマー型認知症の症状・進行・寿命を解説
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/メディカルクリニックあざみ野 院長
専門:消化器外科 / 在宅医療・高齢者医療・がん緩和ケア・心不全・呼吸不全
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
在宅医療・訪問診療、高齢者医療やがん緩和ケア、心不全・呼吸不全の療養について、気になることがあればお気軽にご相談ください。認知症に伴うBPSDへの対応や、介護されているご家族のご不安についても、訪問診療を通じてサポートいたします。
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ご相談の際は、以下の書類をご用意いただくとスムーズです。
- 薬剤情報提供書またはお薬手帳の写し
- 医療保険証・公費証明書・各種受給者証の写し
- 介護保険証・介護保険負担割合証の写し
- 限度額適用認定証等の写し
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